このコーナーではフリージャーナリストのkokoさんが世界各地で出会ったサステイナブルなライフスタイルをレポートします。
あなたの地域のコミュニティづくりのヒントになるかもしれません。
eepfでは地域の活性化のための人材づくり、ワークショップなどのコンテンツやさまざまな仕組みを通してサステイナブルコミュニティづくりのお手伝いをしています。
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イタリア:
過疎の村に向けた、サステナブル開発
分散化宿泊施設
観光立国イタリアには人口より多い、年間6000万人の旅行者が訪れ、ヴェネチアなど人気の観光地はオーバーツーリズムに悩む。一方、過疎が進む地方の小さな村ではその存続とサステナブルなツーリズムを目指して、新しい開発が成果を上げている。村そのものを「分散化宿泊施設」にするユニークな試みだ。
日本のテレビ番組でも「イタリアの小さな村」が好評を得たが、イタリアには人口が5000人未満の自治体が現在5600近くある。そして、イタリアのユネスコ世界遺産の6割以上がこうした小さな村に存在している。しかし、山頂など不便な所にある村15000以上が廃村になってしまっている。
過疎の村をなんとか再生させすべく、村に点在する徒歩圏内の空き家や店を宿泊施設やレストランとして利用し、村全体をホテルに見立てたのが分散型宿泊施設の開発だ。キッチンや居間などを備えた家での滞在は、村民のような気分に。また、住民による素朴なおもてなしで、地元ならではの食や文化体験、アクティビティが楽しめる。
新しい建設ではなく、村の文化も継承する住民のための開発は、持続可能な街づくりといえる。現在イタリアには主に中南部に、平均7軒の宿泊施設を有する約150軒分散型宿泊施設が存在する。そのうち8割の村に新しい商店が開業し、家が売買され住民が増えているという。
ミラノ近郊の寒村
旧市街地「猫の集落」が人気に
商都ミラノの南約60km、ワイン畑の丘陵地帯にある中世の村、ゴルフォレンツォもその一つ。人口が100人以下に減少した村に、空き家などを改造した宿泊施設7軒とレストラン1軒、イヴェント・ホール、食材店、スパとプールからなる分散型ホテルが旧市街地に誕生。
わずか住民5人と猫23匹が暮らす旧市街地にちなんで「ボルゴ・デ・ガット」(イタリア語で猫の集落、の意味)と名付けた分散型ホテルには、のんびり田舎暮らしを求める都会からの人々が訪れるようになった。イベントも多々開かれるようになり、地元雇用も増えた。
豊かな田園地帯のサステナブルな暮し
実りの秋の週末に、ミラノから足を延ばした。満天の星空が覆う丘陵地帯をドライブし、静かな深い夜の眠りを堪能した。
翌朝、野鳥のさえずりで目覚めると、家の軒下には近所の農家が届けてくれた朝食のバスケットが置かれていた。新鮮な果実や卵、自家製のハムやヨーグルト、パン。
「ボンジョルノ!」と農家のおばあさんが入れたてのコーヒーを届けてくれた。テラスのテーブルで2匹の猫をお伴に、田園風景を眺めながらゆっくりと楽しむ豊かな朝食。山並みにこだまする幾つもの教会の鐘。サステナブルな暮らしを約束するかのように、その音は永遠に続いた。
<著者プロフィール>
篠田香子 しのだこうこ
フリーランス・ジャーナリスト、東京とミラノを2拠点に、都市・不動産開発、ツーリズム、サステナブルライフ関連をレポート。