富裕都市国家の豊かな自然環境と生活、シンガポール

意外にサステナブルなマリーナ・ベイ・サンズ

ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ越しに臨むマリーナ・ベイ・サンズ

 東京23区ほどの面積に550万人が住む都市国家シンガポール。日本ではマリーナ・ベイ・サンズの異形が話題になったが、一見近未来的な高層都市は、約300の国立公園を有し、英国統治下時代の優雅なコロニアル建築も残す。

 政府は自然環境への配慮と、古い町並みをも整備する都市開発を進めてきた。2011年には温室効果ガス排出ゼロを目指し、世界最大規模の垂直緑化壁を市内のショッピング・モールに建設した。

 その翌年にマリーナ・ベイ・サンズが完成。屋上にプールを設置した3棟のホテル・タワー、巨大カジノ、国際会議場、ショッピング・モールなどからなる超大型IRだが、ここ10年で約25%の温室効果ガス削減を達成している。

 そのために、スマート技術を導入したエネルギー・システムと太陽光による再生可能エネルギーを活用。節水型設備と雨水の活用で水資源を管理。廃棄物削減のために、一日500kgを分解処理する設備を設置、リサイクルを行っている。飲食部門での余剰の食材はフード・バンクに寄付、持ち帰りも推奨。近圏の食材や認定農産物を使う責任ある調達を心掛けている。

使い捨てのプラスチック製品は使用せず、随所にゲストらのためにリサイクルのために分別されたごみ箱がある。外観からは意外だが、極めてサステナブルな運営が行われているのだ。

スーパー・ツリーはライトが付くと幻想的に

マリーナ・ベイ・サンズに隣接して100haの広大なガーデンズ・バイ・ザ・ベイが広がり、150万本余の熱帯植物と花々が咲く。バイオ燃料による半円形の温室も。スーパー・ツリーと呼ばれる人工樹は、温室換気口の役目と樹冠のソーラ・パネルによる電力を提供している。水生植栽による濾過作用を行う池の水がガーデンを潤し、貯水池にも支給されている。

寛げる公共施設、空港には壮大な樹林と滝

ガーデンズ・バイ・ザ・ベイの温室

 ガーデンズ・バイ・ザ・ベイもその他の公園や自然保護区も、生物多様性を掲げ、旅行者だけでなく住民のための豊かな憩いの場となっている。住民にも人気のシンガポール植物園は、1859年に研究機関として英国により設置された文化的背景からユネスコ世界遺産に認定されている。

自然保護区の貯水池は、ボート遊びも

街中から離れた自然保護区も、車を使わずに徒歩と公共機関で移動できる交通インフラが拡充されている。市内は厳しい車両規制がされており、渋滞は少ない。ちなみに公共交通機関内での飲食、公共の場でのゴミのポイ捨ては罰金が課せられる。

空港内とは思えないジュエル・チャンギ・エアポートの滝と緑

世界でも数少ない、日本より清潔できれいな国といえる。その秩序がサステナビリティの推進力ともなっているのだろう。旅行者はまず、シンガポールの玄関、ジュエル・チャンギ・エアポートに設けられた壮大な樹林と滝に驚かされる。

3000本の樹林と6万本の低木が植えられたドーム中央に、雨水を利用した世界最大の屋内滝が流れ落ちる。それが空気循環と冷却に活用され、屋内空調の自然循環を促進している。再生建材や再生可能エネルギーを多く用いるなど、空港としてサステナビリティは世界的に評価されている。

 空港には旅行者が自分のフライトによるCO₂排出量を知り、任意で相殺(オフセット)できるシステムが設置されている。個人の環境意識を高めることも、空港のサステナビリティ戦略の一環だ。ちなみに、東京〜シンガポール間で約0.3〜0.5トンのCO₂ で、約S$5〜S$10)のオフセット料金となる。これは再生可能エネルギー、自然保護などに寄付される。

 シンガポールの徹底したサステナビリティは、国の規模ゆえともいえるだろう。だが、富裕層ほどサステナブル・ライフへの関心が高いといわれるように、サステナビリティは余裕があってこそ実践しやすい。今やシンガポールには、日本の国家予算の約5倍、50兆円を超える投資資金が流入している。

シンガポールでの束の間の寛ぎに、サステナビリティが利得でも特権でもなく、フツーな世界になる道のりを案じる。

コロニアル風情に寛ぐ


>シリーズ企画:「サステイナブルライフを求めて」

<著者プロフィール>
篠田香子 しのだこうこ
フリーランス・ジャーナリスト、東京とミラノを2拠点に、都市・不動産開発、ツーリズム、サステナブルライフ関連をレポート。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: kokoShinoda_s-edited.jpg

eepfではセミナーやワークショップなどのコンテンツを通してサステイナブルコミュニティづくりのお手伝いをしています。。
ご興味のある方は、お気軽にご相談ください。
> CONTACT